【読了】肉体の悪魔
Amazon.co.jp: 肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫): ラディゲ, 中条 省平: 本
新年早々とても面白い本に出合った。
15歳の早熟な主人公が婚約者を持つ19歳の女性と出会い、恋におちる話。
主人公が自分を特別にマチュアだと考えているのだが、この年の少年というのはえてしてそのような自己認識を持つのではないかとも思う。
他方で本作にあるほどにのめりこみ、行動していく点ではやはり早熟と言えるのだろう。
この本のどこに感銘を受けたのか。
客観的な視点で過去を振り返り、地の文では淡々と物語が進める一方、主人公やヒロインの言動を見るととても情熱的であり、そこに初恋を振り返るような気持ちを覚えたのだろう。
また、解説を読むと三島由紀夫も本作の作者であるラディゲを評価していたとあり、確かに三島由紀夫の作品と通じる硬質なタッチがあり、そこに心にきりきりと切れ込む気持ちよさを感じた。
第一次世界大戦という非日常の中でしか成立しなかったストーリーであり、戦争の悲惨さといったテーマでは全くないが、戦争が人に与える影響の大きさについても考えさせられる。
「式の近づいてだらしない人間は、そのことに気が付いたわけでもないのに、突然、身辺整理を始めるものだ。生活が一変する。書類を仕分けし、早寝早起きし、悪習を絶つ。周りの人々はそれを喜ぶ。それだけに、突然の死はなんとも理不尽なものに思われる。これから幸せに生きようとしていたのに」
【読了】うそつきの天才
Amazon.co.jp: うそつきの天才 (ショート・ストーリーズ): ウルフ スタルク, はた こうしろう, Ulf Stark, 菱木 晃子: 本
なぜかメモ帳にタイトルがあった。おそらくラジオか何かで気にとまりメモしたのだろう。
絵本作家の自伝的短編二編。
内容は最近では一番面白かった。
前篇のうそつきの天才では、筆者の子供時代のうそつきの天才としてのエピソードが軽妙な語り口で描かれている。
誰しもが一度は犯しそうな(たぶん私はしている)過ちからの家出、そして帰宅と英雄扱いされるさま。すべてにおいて子供らしい、そして普通の子供では徹底できないレベルのうそがつかれていて、うそつきの天才の名にふさわしいと感じた。
主人公がもう嘘はつかないというものの、結局うそでオチをつけるあたりも小気味いい。
第二編のシェーク VS バナナスプリットは文学者としての第一歩を歩んだ姿を描いている。
内容は読んでいただいたほうがわくわくするので割愛するが、オチも強く、前篇とのつながりも感じさせ、とても面白い。
絵本作家の作品ということでとても読みやすく、おすすめの一冊。
【読了】高校生のための精神分析
Amazon.co.jp: 高校生のための精神分析入門 (ちくま新書): 清田 友則: 本
読んだものの、一気に読めなかったこともあり、正直内容の理解ができたとは言えない。
各章のタイトルは刺激的で、中も文としては平易。
だがやはり精神分析というジャンルが難しいこともあるのかもしれないが、内容がつかみきれなかった。
何度も通読することで内容理解ができるのだろう。
【読了】実践!交渉学
Amazon.co.jp: 実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書): 松浦 正浩: 本
名前にひかれて本を手に取った。
交渉学とは何か、何も知らない私もサクサクと読めた。
3行で交渉学とは何か説明すると、
お互いの交渉材料を整理、把握し(Best Alternative To Negotiated Agreement : BATNA)
合意可能な範囲を特定し(Zone Of Possible Agreement : ZOPA)
よりよい合意をなす(パレート改善)
ということだと理解した。
交渉学とはパレート改善を目指すものなので、自分にとってよりよい条件を引き出す交渉術とは異なる、ということも本書を読んで得られた学びであった。
本書の内容はとてもシンプルで、読んでみれば特別なことではないのだが、系統だってまとめられており、一読の価値がある。
【読了】新しい論語
Amazon.co.jp: 新しい論語 (ちくま新書): 小倉 紀蔵: 本
論語について私はほとんど知識を持っていない。
そこで何か入門書になればと思い、この本を手に取った。
この本の趣旨としては従来の孔子=君子(シャーマン)という図式から孔子を外し、孔子を「アニミズム」的なシャーマンとしてとらえなおし、より世俗的な存在としてとらえ、論語を再考するというものだ。
私もシャーマン的な、本地垂迹説のような、何か一つの主体から分け与えられている神性のようなものが物事の中にあるようなイメージを持つことがある。
すなわちそれが古代中国でいうような君主のイメージであるかと思う。
この本の解釈における孔子はそのような存在ではなく、人々の「間」すなわち関係性に価値を見出すより汎人的な存在だ。
私に論語の知識がないので理解が表層的になってしまったので、後日再読したい。
【読了】悪い奴ほど合理的
なかなか読書が進まずようやく読了。
本自体は読みやすいのだが、まとまって読書をする時間を取れなかった。
Amazon.co.jp: 悪い奴ほど合理的―腐敗・暴力・貧困の経済学: レイモンド・フィスマン, エドワード・ミゲル, 溝口 哲郎, 田村 勝省: 本
よりよい社会は何か、どのように作れるのかを考えたいと思い読むことにした。
サブタイトルにあるように、いかに世の中の腐敗や暴力、貧困が経済合理性に基づいて生まれているかを解説している。
特に関心を惹かれたのは2章にあった汚職の価値を株価の推移から推定するもの。
インドネシアの独裁政治下の政治的つながりがある企業の株価の推移は、優位に独裁者の健康状態に左右されており、汚職にはそれだけの価値があると考えられる。
これまで「株価はすべての情報を取り込みその企業の実態を反映する」と聞いてもあまり実感がわかなかったが、実際の株価の動きをみると納得できた。
他方、4章の腐敗の程度は国の文化によって異なるという言説は納得できているものの、どのように国が変わっていくのか/変われるのか、という意味において限界があるのかとも考えられ難しさがある。
最近仕事を通して自分の弱点の一つにエビデンスベースで議論を構築することがあると痛感しており、その意味でもどのように論理展開するかを考えさせてくれる良いきっかけになった。
世界を良くするためにはいろいろな手法が考えられていて、それぞれ確からしいのだが、なぜ大幅には変わったように思われないのか。
徐々に変わっていても見えないだけなのか。
【読了】武器よさらば
Amazon.co.jp: 武器よさらば (新潮文庫): アーネスト ヘミングウェイ, 高見 浩: 本
今まで読んでいなかったので手に取った。
読後感としては60点くらい。とても面白いというわけではなかった。
ヘミングウェイの訥々とした語り口から戦争が描かれている。悲惨さはもちろんあるが、主人公の飄飄とした態度がそれをあまりつらいものに見せていない。
戦争に対しては撤退戦を除いて飄飄としていた主人公が、一転恋愛面では徐々に情熱的になっていくさまが対照的だった。
主人公個人としての単独講和、という考えに非常に納得感があった。戦争に巻き込まれ(主人公は進んで従軍したとは思うが)、前線での体験、撤退戦の体験を経て、自称単独講和によって戦争から距離をとる。
個人主義の結果だが、世間的にこれが認められるわけではない。これを認めることは軍隊の崩壊につながる。
自分は自分、という考え方をいかに強く持てるかというのは自分の中でも持ちたい。